村田製作所、スマホ用通信フィルター―複数帯域の電波つかむ(2017/06/09)

村田製作所はスマートフォン(スマホ)に使う新型の通信フィルターを開発した。複数の帯域の電波をつかめる。従来品では難しかった高い周波数にも対応するほか、電波の損失を3~4割減らせる。競合する部品に比べて価格も2割以上抑えられるという。スマホの一段の小型・高機能化に役立ちそうだ。

通信フィルター「IHPSAWフィルター」を開発した。IHPとは「インクレディブル・ハイ・パフォーマンス」の略称。開発担当の高周波デバイス事業部SAW商品部の芝雅裕部長は「顧客へ提案しにいくと名前で反応される」と話す。そう名付けたのも自信の表れかもしれない。

SAWフィルターはスマホのアンテナ部分に設置する0・5~1・2ミリメートル角の電子部品。通信会社の基地局から届いた電波のうち、部品の表面で網の目のフィルターのように必要なものだけをつかみ取る。データを送受信するときの玄関口としての役割を担う。村田製は世界で5割の圧倒的なシェアを持つ。

スマホの通信は800メガ(メガは100万)ヘルツなどの低帯域、1・5ギガ(ギガは10億)ヘルツなどの中帯域、2・4ギガヘルツなどの高帯域の電波を幅広く使う。国・地域によって必要な電波を選んで通信する。

スマホメーカーの世界統一モデルの投入で、国・地域ごとに異なる帯域を1台でカバーすることが求められる。異なる周波数の電波を束ねて通信する技術「キャリアアグリゲーション」を採用する端末もあり、SAWフィルターの重要度が増している。1台の設置数は約50個と、ここ10年で10倍になったという。

SAWフィルターはセラミック製の圧電部品の表面にアルミニウムなどで回路をくしのように描き、波形の電波信号を電気信号に変える。3ギガに近い帯域になると使えないため、米ブロードコムなどが高いシェアを握る「FBAR」などの電子部品を使わなければならなかった。

村田製が開発したSAWフィルターは、セラミックの圧電部品の上にシリコンや無機化合物などを載せて多層構造とすることで、つかみきれなかった電波を表面の回路に戻す。電波の損失は従来品よりも3~4割減る。効率的に電波をとらえられるようになり、ほぼすべての帯域で使える。耐熱性は倍になった。

村田製は金沢村田製作所(石川県白山市)などで量産体制を整えた。スマホメーカーからの引き合いが急増しており、3月までに生産能力を2割引き上げた。芝部長は「新技術を使えば、端末をより小型・高性能にできる」と話す。

同社の新型SAWフィルターは米アップル「iPhone(アイフォーン)」など、次世代モデルの高機能化に寄与するとみられる。高速大容量通信を可能にする次世代通信規格「第5世代(5G)」のサービスが登場すれば、用途はさらに広がると見込まれる。

SAWフィルター
SAWは「Surface Acoustic Wave」の略称で、日本語訳は弾性表面波。通信会社の基地局から届く電波のうち、必要なものだけを取り出す。表面にある回路が対象とする周波数の波長を電気信号に変え、データを送受信できるようにする。スマートフォン(スマホ)の内部に50個ほど組み込まれており、価格は1個10~50円程度。スマホの高性能化に合わせ、微細化も進んでいる。