電子部品 営業利益率20%のビジネスモデル(村田 朋博)を読んで

電子部品 営業利益率20%のビジネスモデル
村田 朋博
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 90,467

豊富な実例でニッチの王座を奪い成功した「方程式」を解説してくれています


高い利益率を確保するにはニッチであれ、というのが本書のキーメッセージであるが、ニッチというのが商品群を指しているだけではなく、明確な戦略を持って経営しているとも言える。例えばサービスやブランドにエッジをきかせることでニッチの座を確保するなど。

日本の製造業はかつて世界のお手本だったのが、後塵を拝するようになり、今では日本のトップ19社の利益の80%をサムソン一社で上げるほどのパワーを海外勢に追いつかれてしまったのだけれども、日本のメーカーにはがんばっている会社も多い。例えばロームの工場は京都の街中にあるが、優秀な人材を得て商品力を高めれば固定費の増加など簡単に回収できるというのも明確な意思です。

キーエンスの驚異的な利益率は有名ですが、他メーカが負け惜しみのように「だってあそこは商社だから」なんて言います。開発を自前でやって製造を委託しているだけで立派なメーカーです。むしろ自前で製造機能をもっているメーカーの方が製造コストを安くすることができるはず。ひとえに明確な戦略を元に一気通貫で運営できているかの違いですね。筆者がその利益率の秘密をキーエンスに尋ねると、「粗利益80%以下の製品は手掛けないから」というシンプルな答えであったということです。もちろんそれによって、ワンストップショップとしての評判は失うわけですが、どっちを取るかがはっきりしている方が、なんでもがんばって、結果的に何にもエッジが効いていない会社よりも強いということです。

エーワン精密は、サービスレベルにエッジを効かせる目的のために、敢えて過剰設備を持って飛び込み注文にも確実に対応できるようにしているそうです。

村田製作所は優良企業で有名ですが、売上高1.2兆円のうち、世界1位製品が占める割合がなんと7~8割だそうです。こうなるとブランド力が効いて、注文と株主資本が舞い込むポジティブスパイラルに乗れますね。これを筆者は「ニッチ方程式」と言われていますが、ニッチの王座に君臨すると、市場を調査しなくとも、顧客のほうから「こんなもの作れませんか?」と聞いてくるので、最先端の市場ニーズを努力せずとも手に入れることができると。まさにいいことずくめです。

ただ、エッジを効かせてニッチの座を確保するというのはなかなか簡単にできることではなく、リスクも高いと思います。本書でいうところの「技術がニーズを追い越す」という現象は多く、例えば今はやりの4Kとか有機ELとかも、ニッチの座を確保したとしても報われるかどうかは微妙ですよね。人間が聞こえる以上の音を再生するSACDとか、網膜が認識できる以上の4Kのスマホとか、物理的に不必要な技術を宣伝しているとしか思えません。

TI(テキサスインスツルメント)の例もすごいと思いました。いままでの多角経営から一気に商品群をアナログ半導体とDSPにフォーカスするために、プリンタや化学などフォーカス以外の事業をメッタ切りしています。普通は大会社になるとあれやこれやと多角化して保険をかけようとしますが、いままで築き上げた栄華を一瞬に失うかもしれないリスクをとって、さらなる繁栄のために大きな決断をします。

シーメンスもTIほどではないものの、通信や自動車部品をバサっと切っています。自動車部品など成長分野のような気もするのですが、どういう判断基準だったのでしょう。逆に自動車部品へ乗り込んだのがマブチモーター。高信頼性技術を生かしていままでやったことのない分野に飛び込み、それを今では会社の主力事業にしてしまうところがすごいです。しかもそれを決意したのが会社が最高収益を上げていた時だというから先見の明に驚かせられます。

フィンチの嘴の話も面白いです。ガラパゴス島のフィンチという小さな鳥は、競合しないように違う餌の種類を食べる嘴の短い種と長い種の二種に分かれていったそうです。これをビジネスに当てはめると、競合同士価格競争をやってしまうと、両社滅亡するが、お互いがニッチの座を探索してぶつからないようにすれば両社繁栄するということでしょう。面白いのは京都にはそういうカルチャーがあるので、日東電工、村田やロームのような優良ニッチ企業が輩出したのかもしれません。